これが、Fit2AI が最初に向き合った問いです。
今のスポーツウォッチは、ペース、心拍数、ピッチ、パワー、標高、トレーニング負荷、リカバリー時間を記録し、乳酸閾値やレース予測、トレーニング状態まで示してくれます。いつものランニングを終えたあとに手にするのは、数個の数字ではなく、数百、数千ものデータかもしれません。
データは、すでに十分にあります。
本当に足りないのは、そのデータを理解する方法です。
「トレーニングを記録する」から「トレーニングを理解する」へ
多くのスポーツプラットフォームは、ある種類の問いに答えることが得意です。
今日は何が起きたのか?
何キロ走ったのか。平均ペース、心拍数、トレーニング負荷はいくつだったのか。
でも、実際にトレーニングをしていると、知りたいのは別のことだったりします。
なぜ、そうなったのか?
なぜ今日は先週と同じペースなのに、心拍数が高かったのか。
今回のインターバルでは最後の2本が遅くなったけれど、普通の疲労なのか、それとも強度が高すぎたのか。
ここ数週間で練習量を増やしてから、閾値での走力は本当に落ちたのか。それとも、天候、疲労、トレーニング構成が重なった一時的な変動なのか。
3週間後にレースがある。今はまだ強度を上げるべきなのか、それとも回復に向かうべきなのか。
こうした問いには、たいてい一つの指標だけでは答えられません。
一回のトレーニングを、より大きな文脈の中に置き直す必要があります。
そこから、私たちの Fit2AI についての考えが始まりました。
AI はトレーニング記録を要約するだけでいいのか
運動データを大規模言語モデルに渡して、トレーニングの評価を数段落書いてもらうこと自体は、それほど難しくありません。
ただ、それだけでは AI の価値は限られていると、私たちはすぐに気づきました。
一回のトレーニングは、切り離されて存在するものではないからです。
同じ 1km × 5 のインターバルでも、練習を再開したばかりの人と、3週間続けて高強度の練習をしてきた人とでは、意味がまったく違います。
乳酸閾値ペースが同じように5秒落ちたとしても、冬、真夏、レース後の回復期、高負荷のトレーニング期では、まったく違う意味を持つことがあります。
だから、私たちが本当につくりたいのは「AI による運動要約ツール」ではありません。
AI に、トレーニングの文脈を見てほしいのです。
最近何があったのかを知り、トレーニング同士の関係を理解し、ユーザーがさらに質問を重ねられるようにする。
そうして、Fit2AI の方向性が少しずつ明確になっていきました。
トレーニングデータを、AI と対話するための文脈にする。
データに問いかけられるようにしたい
Fit2AI を使うために、新しい指標の体系を学ぶ必要はないようにしたいと考えています。
そのまま、こう聞けばいいのです。
「今回のトレーニングはどうだった?」
「なぜ後半になるほど心拍数が上がったの?」
「先月の同じ練習と比べて、進歩している?」
「最近、練習しすぎていない?」
「今の状態なら、来週の練習をどう調整すればいい?」
どれも、ランナーがコーチや仲間、あるいは自分自身に問いかけていることです。
Fit2AI でやりたいのは、運動記録の中に散らばった情報を整理し直し、こうした実際の疑問に沿って AI が分析できるようにすることです。
だからこそ、データを取り込むこと自体を、私たちはますます重視するようになりました。
FIT ファイル、Apple Health、COROS、そして今後つながるさまざまな運動データの取得元。それらは私たちにとって、単なる「インポート機能」ではありません。
それらが合わさることで、AI がトレーニングを理解する土台になります。
スポーツプラットフォームをつくり直したいわけではない
Fit2AI は最初から、スポーツウォッチを置き換えるつもりも、Strava、COROS、Apple Fitness をもう一度つくるつもりもありませんでした。
これらの製品は、運動の記録と表示にすでに優れています。
私たちがより関心を持っているのは、データが記録されたあとのことです。
データがすでにあるなら、それを使って何ができるでしょうか。
自分では気づかなかった変化を、AI が見つける手助けをできないでしょうか。
うまくいかなかった一回の練習を、過去数週間のトレーニングの中に置き直して、捉え直せないでしょうか。
次のレースに向けて準備するとき、過去数か月のデータを実際の判断に生かせないでしょうか。
Fit2AI は、既存のスポーツのエコシステムの上に重なる「理解のための層」に近いものです。
デバイスが記録する。
プラットフォームが保存する。
Fit2AI は、その理解を担おうとしています。
AI の価値は、あなたの代わりに決めることではない
スポーツのトレーニングは、とても複雑なシステムです。
天候、睡眠、ストレス、体の状態、練習の履歴、さらにはその日の主観的な感覚まで、一回のトレーニングの意味を変えることがあります。
そのため、AI が絶対に正しい「電子コーチ」になるべきだとは考えていません。
むしろ、分析のための道具であってほしいと思っています。
傾向を見つけ、データを整理し、考えられる説明を挙げ、自分の判断を見直す手助けをする。
それでも、最後に決めるのは人であるべきです。
これは Fit2AI を設計するうえで、私たちが一貫して大切にしていることです。
AI は、自分のトレーニングを理解するために人を助けるものであり、トレーニングを AI に丸投げさせるものではありません。
とても具体的な問題から始める
LIGHTOUCH では、製品づくりをとても具体的な問題から始めることがよくあります。
最初に「AI プロダクトをつくろう」と決めてから、AI を使える場所を探すわけではありません。
まず、ある問題に出会います。
毎日たくさんのトレーニングデータがあるのに、本当に練習を理解したいときには、今も自分でいくつものページを行き来し、探し、比べ、判断しなければならない。
AI は、その問題に対する新しい解決の方法を与えてくれました。
そうして、Fit2AI が生まれました。
今も、Fit2AI は速いペースで変わり続けています。
一回のトレーニングの分析から始まり、より多くのデータを取り込み、AI により十分なトレーニングの文脈を渡すようになるまで、私たち自身のこの製品への理解も変わり続けています。
それでも、最初の問いは変わっていません。
これほどたくさんの運動データを持っているのだから、本当に生かすことはできないだろうか。
Fit2AI は、その問いに対する私たちの一つの答えです。